特に高齢者に関しての話になりますが、日常生活で自立できるかどうかは歩行速度が大きく影響していることが知られています。

ですので歩行速度をいかに確保していくかはADLやQOLといった観点からとても大切な要素になります。

快適歩行速度と生活範囲の関係

通常の心地よく歩ける歩行速度を【快適歩行速度】と呼び、一般に健常者で一秒間に1mから1,2m(1~1,2m/s : 秒速1~1,2m)とされています。

歳をとるとこの快適歩行速度が落ちてくることは直感的にもわかると思いますが、秒速0.8m程度の速度が出れば、特に制限なく外出ができます。

しかしながら秒速0.8mを下回ると長距離歩行は難しくなり活動範囲が近場のみに、更に秒速0.4mを下回ると屋外に出ることが難しくなり、0.25m以下になると生活の自立度は36%になるとの研究もあります(Potter J. M. : Gait speed and activities of daily living function in geriatric patients.Arch Phys.Med.Rehabil 76, 997-999, 1995)。

ちなみに余談ですが、前認知症を疑う指標として歩行に着目する方法があります。

この場合、具体的には

①歩行にふらつきが多くなる

②歩行速度が秒速0.8m以下に落ちる

の二点を観察します。

いかにして快適歩行速度を高めるか?

ですので自立した人生を過ごすためには快適歩行速度を確保することが必要不可欠といえます。

ではどうすれば歩行速度が上がるのでしょうか?

簡単にいうと歩行時にしっかりと脚を後に送れば良いということになります。

この点を少し詳しく書くと、足が地面から離れる直前の後に送られた脚の第五中足骨頭と大転子を結んだ線と、大転子と床の垂直軸のなす角をどれだけ大きくできるか?という点が重要になります。

この角度をTLA(Trailling limb angle)と呼びますが、TLAをいかに大きくできるか?

というのが快適歩行速度を高める上で重要となります(Tyrell CM, 2011)

歩行時の股関節と足首の関係

歩行時に地面に着いている側の脚の動きを細かく見ると、股関節と足首が連動してい動いていることがわかります。

ここも専門的な言葉を使いますが、歩行時の股関節と足首の関係については以下の二点が大切になります。

①Hip Ankle Trade-off

これは歩行時地面に着いている側の股関節と足首の関節が反対側に動く現象のことです。

一言でいうと、股関節を後ろに送る(股関節伸展)の動きを行うには足首が背屈というつま先が上に向く動きができないといけない、ということです。

実際に両足立ちでも良いので、立って動いてみたらわかると思いますが、体を前に傾けると股関節は伸展されますね。この時に足首も必ず連動して動いて脛の骨が前に傾く動きをしています(足関節背屈)。

このように地面に足がついた状態で股関節が伸展されれば必ず同じ側の足首は背屈される動きのことをHip Ankle trade-offと呼びます。

なので股関節を伸展させる(地面に着いている側の脚を後方に送る)ための条件の一つとして足首が背屈できるという点が重要になります。

②Forefoot Rocker

歩行時の足では三つのFoot Rokerという機能が働くのですが、専門的すぎるのでちょっとここは置いておいてシンプルに考えてみましょう。

歩行時に後ろに送る側の脚を地面から離すときにつま先ギリギリまで体重が移動してきてから離地するのが最もTLAを確保するという点で効率が良いという話です。

地面から足を離す時につま先立ちになる方が骨盤の位置が高くなります。

その分対空時間が長くなり、股関節伸展に使える時間が伸び、結果TLAが大きくなるという理屈です。
 
この時につま先の付け根にあるMP関節を軸にして動く動作をForefoot Rockerと呼びます

これも単純に試してみてください。

歩くとき地面から足を離すタイミングでつま先立ちになるか、足の裏全体を地面につけたまま足を離すかを比べてみるとどちらが股関節をしっかり伸ばせるかすぐに違いを体感できると思います。

当然つま先立ちできた方が自然な動きであり、かつTLAも伸びます。
 
ですので歩行速度を高めるためには、つま先立ちがしっかりとできるだけのふくらはぎの筋肉が必要になると言えます。

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