五十肩は中年期によくある肩を動かせなくなる疾患です。
四十肩と呼ばれることもありますが、どちらも俗称で全く同じものです。
正式には”肩関節周囲炎”と呼びます。
40歳以降に多く見られる疾患なので、年齢にちなんで四十肩や五十肩という名前がついています。
五十肩になった経験のある方はたくさんいらっしゃると思います。
臨床をしているとかなりの頻度で遭遇する疾患です。
よく知られている疾患だけに患者さんの間でも話題に上ることも多く、処置方法も「動かしたらいい」とか、逆に「動かしたらダメだ」とか、皆さんから色々な意見を耳にします。
時期と症状によって必要な処置は変わりますので、どちらも正解とも間違いとも言えないのですが、適切な処置をしないと悪化させてしまいますので注意が必要です。
今回はこの五十肩について整理していきながら有効なアプローチ方法を考えていきましょう。
なぜ五十肩になるのか?
五十肩の典型的な症状としては手を上に挙げられなくなることです。
特になり始めは痛みもきつく、じっとしていても痛むし、夜寝るのが辛いほど痛むことも珍しくありません。しかし時間の経過とともに自然とこうした症状が消えていくのが五十肩の特徴です。
ただし、楽になるまでにかかる時間にはかなりの個人差があります。
早ければ3ヶ月程度、遅ければ2,3年というケースもあります。
この期間をどれだけ短くしていけるか?というところが治療の目標になります。
これだけ頻繁にある疾患にも関わらず、発症のメカニズムがよくわかっていないのが五十肩の特徴です。なぜ五十肩になるのか?はよくわからない訳です。
年齢的なものや負担がかかる状態での使い過ぎなどの要因は考えられますが、病巣や病態もそれぞれで決定的な要因を特定できないのが実際のところです。
そしてなぜか勝手に良くなってくるのも五十肩の特徴です。
ですので五十肩全般の特徴として
・なぜなるのかよくわからない
・自然に良くなってくる
の二点が挙げられます。
何が起きているのか?
五十肩の病態を少し詳しく見ていくと、
・肩関節の中に炎症を起こしてそこが痛む
・痛くて肩を動かせないことで、肩の周囲の筋肉や靭帯が固まって動かせなくなる
という二つの状態に大別できます。
これらのいずれか、もしくは両方を併発している訳です。
これらを念頭に大まかな治療方針を考えていきます。
簡単に言うと、炎症がきついうちは安静に、そして炎症が引いて組織が固まることによる不具合が出ている時期には動していく、ということになります。
症状の経過とやるべきこと
五十肩の経過としてはまず最初は肩関節の中に炎症が起きます。
これが炎症期と呼ばれる時期で、この期間は強い痛みに悩まされるケースが多く見られます。
じっとしていても痛い、熱っぽさがある、痛くて夜寝られない、などはこの時期の典型的な症状です。最もしんどい時期ですが、このフェーズは数週間から半年ほど続くと考えられます。
この時期は動かすと炎症がひどくなりますので、基本的には患部の安静と冷却して熱をとることを行います。
ただ全く動かさないと固まってきますので、患部に痛みが出ない範囲で動かしていった方が良いです。それができているかどうかで、次の段階に進んだ時に大きな差が出てしまいます。
少し細かく言うと、鋭い痛みが出ないように注意しながら、肘や肩甲骨、鎖骨など肩関節の周囲の関節を出来るだけ動かして固まるのを防ぎます。肩を動かさなくなると周囲の関節も動かさなくなり、固まってしまいますのでそれを防ぐ訳です。
同時に肩周囲の筋肉を動かすことで血流やリンパの流れを出来るだけ滞らないようにさせていきます。そして筋肉を動かせる範囲で動かすことで脳との連絡を保ち、神経機能の低下を防ぐようにします。
どういう動きが良くて、何がダメなのかの判断が難しいですし、正確に動かすことも大変ですので、ここは専門家にサポートしてもらう必要があります。
自分でできることはしたら安静など患部に出来るだけ負担をかけにあようにすることと氷による冷却です。
次は拘縮期と呼ばれる段階です。
ここは数週間から1年程度を要すると考えられます。
拘縮(こうしゅく)とは固まってしまった状態のことです。
人間の体は動かしていないとすぐに固まってしまうのですが、炎症期で動かせないことにより肩の周りが固まってしまう訳です。
ただ炎症期には安静が必要になりますので、拘縮してしまうのはある意味当然で仕方がない訳です。
ですので炎症期に安静にする箇所を必要最低限に留めておいて、出来るだけ固まる箇所を少なくして拘縮期を迎えられるように、炎症期の早い段階からの処置が必要とされる訳です。
このフェーズでは積極的なアプローチが必要になります。
動かせる範囲でどんどん動かしていって固まった箇所を緩めていきます。
その手段として手技療法を受けたり、運動療法を受けたりしていきます。
ご自身でも日常生活の中で動かしていく必要がありますが、無意識に動かしていると肩をすくめながら腕を上げるような変な癖がつきやすいので注意が必要です。
やはりここも専門家の支持のもとリハビリに取り組んでいった方が良いでしょう。
最後に寛解期と呼ばれる数週間から数ヶ月のフェーズを経て回復してきます。
五十肩は自然と良くなってきますので、特に処置をしなくてもこのような経過をたどって徐々に痛みは消えてきますが、しっかりと処置をしていないと固まった組織があちらこちらに残ってしまい、手が上がりきらないなど、元の機能を取り戻すことができなくなってしまいます。
また、適切な治療を施すことによって各フェーズを通過する時間を短くすることが期待できます。
次に具体的な処置方法をまとめてみます。
具体的な病態とアプローチ方法
五十肩の場合、各組織に様々な変性が見られます。
少し専門用語が入りますが、具体例の一部をあげてみます。
棘上筋腱:腱線維断裂
二頭筋長頭腱周囲:肥厚・拘縮
肩峰下、烏口下、三角筋下、肩甲下滑液包:炎症・癒着
滑膜:炎症
腋窩陥凹:関節包が短縮することで消失
腱板疎部(烏口上腕靭帯、上関節上腕靭帯):肥厚・拘縮・異常な血管増殖による血流増加(Burning sign)
棘下、小円筋周囲:拘縮
などが見られます。
ですので施術のポイントとしては
1.肩峰下スペースの拡大
2.各組織の拘縮除去
3.可動域訓練
の三つを意識して行うことが重要になります。
具体例としては
・骨頭の上方変位、前方変位に対して矯正をかけて第二肩関節、肩甲上腕関節のアライメントを調節する
・肘の回内回外制限や肩甲胸郭関節の可動域制限を除去し、上肢帯全体としての可動域を確保することで肩甲上腕関節への負担を減らす
などのアプローチを中心にフェーズごとに必要な処置を施していきます。
症状の特徴から、回復まである程度時間がかかるのは仕方がないにしても、少しでも早く治ればそれに越したことはありませんので、五十肩の症状がある場合にはどの段階であっても、しっかりと処置をして行くことが大切です。